(旧HP巻頭エッセイ27) 2020年7月 裁縫 里見 佳保
春先から、ついついテレビをつけてニュースを見たり、ネットをチェックしたりして頭の中が情報過多になってしまっていた。情報はうまく取り入れればとても役に立つけれど、新型コロナウィルス関連の情報に接するたびに不安がどんどん膨らんで自分自身を傷つけているなあと気づいた。情報は言葉。強い言葉、激しい言葉の洪水に流されそうになっていた。自分は言葉の世界を大切に生きてきたと思っていたのに。これは情報ダイエットが必要だ。あえて自分で見聞きする情報の量と時間に制限をかけなければ。
そこで思いついたのが、お裁縫。私は下手だけど子供の頃裁縫が好きで、小学校の時は手芸クラブだったのだ。そうだ、マスクを作ろう。久しぶりに裁縫箱を取り出して、縫いごとをしてみた。
型紙をあてて線をひき、はさみで布を裁ち、まち針で布を合わせてとめて、縫っていく。最後にゴムを通してできあがり。ちくちく、ちくちく。黙々と手を動かすと頭がからっぽになりいつのまにか形が完成している。時間があっというまに過ぎた。
よりたくさんの情報、より最新の情報を求めて、わずかな自分の時間を費やしてきたけれど、目の前の一つのことに夢中になって何かをつくりあげるというのはなかなかいいものだなあと思った。
ある時は手を動かしながら、今は会うことができない人に思いを馳せた。父母やふるさとの人々、歌仲間、先生。たとえ今そばにいなくても彼ら彼女らと過ごした時間を思い出す時、心満たされていると思った。どこにも行けず、誰にも会えないこの時間は寂しい時間ではなく、自分はこの人達と深く繋がっていると思える時間に変わった。自分の内側にはこのやさしい人々との関わりの中で得た言葉が蓄えられていたのだと思い出した。
市販品もだいぶ手に入りやすくなってきたが、縫い目の揃わない手作りマスクは今も使い続けている。
とうに答えはミシンカタカタほのあかく見えているけどミシンカタカタ
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