(旧HP巻頭エッセイ43)2022年3月 ことばの育ち 里見 佳保

  先日、言語聴覚士の中川信子先生の講演を聴く機会があった。コロナの影響のため、ZOOMでの開催に変更となったが、心動かされる内容だった。

 言語聴覚士はことばによるコミュニケーションに課題がある人を支援する専門職。対象としているのは脳卒中後の失語症や聴覚障害、ことばの発達の遅れ、声や発音の障害など多岐にわたる。言語聴覚士は成人対象として働く人が多いが、小児対象の言語聴覚士はニーズに対し、まだまだ少数なのだという。

 

 子ども分野の言語聴覚士はことばがはっきりしない、ことばが遅い、どもる、落ち着きがない、友だちと遊べないなどのお子さんと楽しく遊び、相談にのる仕事であり「ことばが増えるのが遅いんです。どうしたらことばが増えるでしょうか。」という質問がよく寄せられる。そんな問いに対して一番育てたいのは伝えたい気持ちであるということ。そのために必要なのは「聞いてくれる」と信頼できる相手であるということ。ことばは引き出すのではなく、ことばが思わず出てくるような存在に周りがなること。などを伝えているという。

  歌作りでも、やっぱり根っこにあるのは伝えたい気持ちや信頼できる相手だなあと思った。短歌では思い切った省略がなされる。主語であったり、状況だったり、長く詳細に説明することはできないけれど、歌という共通のかたちがあることで読む人に受けとめてもらえるのだと信じて託す。

 そして歌を読む時にはその作者の思いを受けとりたいと願って文字には書かれていない部分を読み取ろうとしている。伝えたい気持ちがある喜び、伝えたい相手がいる喜びを静かに思う春の一日だった。

    幼な子にはじめての虹見せやればニギといふその美しきにふるへ 

米川千嘉子『一夏』

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