(旧HP巻頭エッセイ59)2024年1月 銭湯 里見 佳保

    寒い寒い冬が来た。私の冬の楽しみのひとつは銭湯に行くこと。「銭湯、行きたいな。」と思い立ったらいつでも行けるように車にお風呂セットを積んである。半年ほど 前から肩が上がらなくなって、いよいよ冷えがよくないお年頃になったことを実感してきているので、この冬はますますお世話になる回数が多くなりそうである。

 わが市は、銭湯の数がとても多く、しかもその湯は温泉である。さらに早朝から営業しているところが多くあることが 特徴で、営業時間が長い。早い店は朝5時から開いている。

    これは港町ゆえに海から帰ってくる漁師さんたちのために早朝から銭湯を開けてきたのがそもそもであるとか。

    銭湯は生活圏にあるものゆえ、旅行でいくような温泉地の 旅館とは違い、豪華さやおしゃれさはない。しかし、入浴前後もなかなかおもしろい場所なのだ。脱衣所の壁には温泉分析表や演歌歌手のポスター、人生訓などが貼られている が、読むと妙に納得することが書いてあったりする。受付横 には地元の野菜やちょっとした総菜などを並べているし、風呂上がりのコーヒー牛乳やアイスも昭和からいまだに 健在だ。 湯船だって、手足を伸ばしてくつろげる。家の風呂ではこうはいかない。露天風呂や打たせ湯、季節によっては柚子風呂や 菖蒲湯などの特別な湯もうれしいものだ。 

    そして何より大切なこと。顔なじみ同士おしゃべりを楽しんでいる常連さんもいるが、私にとって銭湯での入浴は他の人がいる空間の中でひとりになれる時間。


   湯船にゆっくり浸かって目を閉じる。さまざまな考えや思いが降りてきてまた消えていく。歌のことを考えることもあるけど、 たいてい風呂で考えたことは忘れてしまう。でもきっとそれでいいのだろ」うと思う。一度からっぽになるから、また新しいことを容れることのできる自分になれる。

銭湯の大屋根くぐるよろこびは異界の湯へとくぐるよろこび

                                             池田はるみ『妣が国 大阪』 

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