(旧HP巻頭エッセイ62)2024年4月 虫 千家 統子
虫は見るのも嫌、と言う人が結構いるが、私は田舎で育ったせいか刺したり、かぶれたり、病気のもとになりそうなものでなければ、一応手にとることはできる。
見るのも大好きとまではいかないが、小さい体で動き回っているのを見ると、君も頑張っているね、と思う。
とはいえ、我が家の狭いベランダの鉢植えの山椒の木に蝶の幼虫が這いまわっているのはかなり悩ましい。大きい木なら食べ放題にしてもいいのだが、60センチ程度の木ではあっという間に丸裸にされて 枯れてしまうのは目に見えている。毎年季節になるとじっくり観察をして、できるだけ早く数ミリの大きさの時に見つけ、ごめんねと謝りながら6~8匹のうち2匹だけを残すようにしている。黒い体に白い模様の鳥の糞に似せている幼虫が、ある朝、初代の新幹線 のような形の緑の虫になっている。頭をつつくと、橙色の角を出す。敵が嫌がる匂いを出しているらしいが、人間には効果なし。毎年見ているが、どこで蛹になっているのかベランダ付近を探すがわからない。
無事に羽化して揚羽蝶になったと信じている。
このささやかな自然観察コーナーに熱烈なファンができた。五歳の男の孫だ。二年前幼虫を見て以来遊びに来るたび、山椒も葉を落として虫がいるはずもない冬でも雨でもチェックが入る。挙句、餌の葉っぱは出たか、蝶は卵を生みに来たか、虫を見つけたか、電話の話はそればかりになってしまった。(こちらは園での様子など聞きたいのに)
これまでだと、ごくまれに虫がつかない歳があるとホッとしたのだが、いまやババ馬鹿は虫を早く見つけようと使命感に燃えている。田舎で育った私と違い都心で育つ孫に、ケースに入っている虫ではなく、都心で自由に 頑張って生きている昆虫に触れてほしいと思っている。
今年も山椒は芽吹き、木の芽味噌、若竹煮と人間の方はいろいろ楽しんでいるが、虫はまだ食べに来ない。
近所の家の金柑の木に蝶が飛んでいたので、そろそろこちらにも来るかなと待っている。
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