笠女郎(かさのいらつめ)その四 恋する女の激しさに大伴家持の方はだいぶ及び腰だったようで、笠女 郎は煮え切らない男の気をひくような歌を次々送ってきます。 ・あらたまの年の経ぬれば今しはとゆめよ吾が背子我が名告 (の) らすな 巻四・590 「あらたまの」は「年」の枕詞、「今しは」は「今は」の強め、引用の助詞 「と」が受けている上の句は、女郎が取り越し苦労のように想像する家持 の心理を表しており、「ゆめよ」は絶対に~するな、と禁止に呼応していま す。 (一年経ったから、今はもうしゃべっていいかな)と、愛しいあなたよ、 恋人である私の名前を絶対に人に言ってはなりません。 強い口調で恋仲を他言するなと訴えていますが、「我が背子」は相手 にたっぷり甘えるニュアンスがあり、居丈高さと甘えの交じった微妙な味わ いです。 相手に他言する気があるかないかはお構いなし。恋の秘密を共有す ることが一大事であり、人に知られた途端、その恋は邪魔され破局するも の、と身構えるのが当時の恋人たちの恋におけるモラルでありました。 続いて、女郎は自分の見た夢の不安を訴えます。 ・我が思ひを人に知るれや玉櫛笥 (たまくしげ) 開 (ひら) き明 (あ) けつと 夢 (いめ) にし見ゆる 同・591 「知るれや」の「知る」は「知らせる」の意味で、下二段活用の已然形 に疑問の「や」が付いています。この歌は二句切れで、私の思いを他人 に知らせましたか、と切り口上な歌い出しです。 「玉櫛笥」は、美しい装飾の手箱で、櫛...
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